応用地質社長 成田賢
Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)
── 事業内容を教えてください。
成田 道路やトンネル、ダムなどを造る土木工事や、ビルなどの構造物を建設するには、地盤や周辺環境を事前に調べる必要があります。インフラや建物の完成後も安全性を維持できるかを施工主が判断するために、地盤や周辺環境を調査することが当社の基本的な役割です。そうした調査のほかに、インフラの維持管理を支援するサービスなども提供しています。
── 工事開始までの最初の作業を担っているのですね。
成田 地盤調査は理学の知見に基づきますが、実際の工事は工学的な観点で進めます。理学的な考え方を工学的に「翻訳」しながら、工事開始に至るまでの基礎資料を作るのが当社の仕事です。
── 事業を4セグメントに分類しています。売上高の3割超を占める最大の「インフラ・メンテナンス」(2022年12月期で198億円)はどんな事業でしょうか。
成田 高速道路やトンネルなどインフラを維持管理するソリューションを提供しています。日本では、高度成長期をピークに新規のインフラ建設は減りましたが、それらの老朽化対策が課題です。例えば、道路脇にはさまざまな斜面がありますが、土砂崩れのリスクを調べるため、センサーを置き微小に動いた箇所を注視して情報提供します。当社はセンサーも開発しています。主な顧客は地方自治体、高速道路のNEXCO各社、JRなど鉄道会社です。
── 近年、大都市で道路の陥没事故も多く発生しています。
成田 地中の状況を事前に把握することができれば、事故は回避可能です。当社は、地中の状況を可視化するシステムを日立製作所と共同で開発し、実用化しています。道路から地下に電磁波を照射して、(その反射を捉えて)地中に大きな空洞はないか、あるいは水道管やガス管、送電線が通っている場所を把握するものです。AI(人工知能)による解析を使って、路面の下の様子を三次元画像にした「地中マップ」を作ります。
例えば、電柱の地中化工事では、従来は地中の状況を調べるために路面を掘削するしかなかったのですが、その方法だと水道管やガス管を切断して水やガスが噴き出すことがあります。地中の配管の敷設状況を事前に把握できれば、事故を回避することができます。
── もう一つの柱である「防災・減災」事業はどんな内容ですか。
成田 きっかけは、1964年6月の新潟地震で発生した液状化問題でした。当社はこれを地盤災害として捉え、地方自治体による防災計画の策定支援を行ってきました。地震や津波の被害予測や、ハザードマップ(被災想定区域や避難場所・経路などを表示した地図)も作成しています。東京都で直下型大地震が起きた時に、どれくらいの家が倒れ、何万人が亡くなるのかという想定もしています。
洋上風力で攻める
── 22年12月期は資源・エネルギー事業の売上高が前期比約4割増。成長の柱は洋上風力ですね。
成田 注力分野です。東京タワー級の巨大な風車もありますが、基礎を海底に埋め込んで固定する「着床式」の場合、弱い地盤上では巨大設備を維持できません。ところが海底の構造はほとんど調査されていません。海底面は常に揺れており、当社は、揺れる震動を音波で捉え、海底面を三次元画像で表示する技術を開発し、設置場所の探査に使っています。風力設備設置の海域を設定する国の調査にも参画しています。実際に風車を設置する段階では、詳細な調査が必要です。洋上風力に適した地盤を調査する会社は他にもありますが、当社は広域的な調査ができる点が強みになっています。
── 地盤調査は原発も対象です。
成田 (福島原発事故後に策定の)新規制基準適合審査での地盤調査を実施しました。原発は廃炉も重要です。原発から出る廃棄物処理も手掛けたいと考えています。
── 環境事業はどのような内容でしょうか。
成田 瀬戸内海の豊島(てしま)(香川県)で起きた産業廃棄物の不法投棄問題で、その後の処理に関わったのが事業のきっかけでした。土壌や地下水の汚染調査や対策支援サービスを提供しています。災害廃棄物処理も対象です。これは、11年の東日本大震災が契機でした。当社は津波の高さも想定できます。これだけの津波が来ると試算すれば、どの程度の廃棄物が発生するかの量も想定できます。専門知識に基づいて災害廃棄物の処理計画策定の支援も行っています。
── 中期経営計画(21~23年)では、23年12月期に売上高620億円、営業利益率8%(営業利益約50億円)を目指しています。
成田 売上高は達成できるという手応えはあります。利益率は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により供給網が混乱し、センサーなど関連機器の製造部門でコストが上昇。達成は厳しいと見ています。
(構成=浜田健太郎・編集部)
横顔
Q 30代の頃はどのような仕事をしていましたか
A 地盤調査の仕事をしていました。ハンマーで岩をたたきながらダムの地質図を作っていました。工学を学んで設計したトンネルは12本あります。
Q 「私を変えた本」は
A 『マネジメント』(ピーター・ドラッカー著)と『ビジョナリー・カンパニー』(ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス著)です。技術者出身ですが、経営の立場になってから読み、世界が開けました。
Q 休日の過ごし方
A ぐっすり寝た後に、午後から自宅近くの川沿いでウオーキングしています。
事業内容:地質・地盤調査、建設コンサルティング、測定用機器の開発製造など
本社所在地:東京都千代田区
設立:1957年5月
資本金:161億7460万円
従業員数:2333人(2021年12月末、連結)
業績(22年12月期、連結)
売上高:590億1100万円
営業利益:25億1800万円
週刊エコノミスト2023年3月7日号掲載
2023年の経営者 編集長インタビュー 成田賢 応用地質社長
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