「Varian Oncology Summit 2023」の会場風景
(株)バリアンメディカルシステムズは2023年5月21日(日),ホテルオークラ神戸(兵庫県神戸市)において,放射線治療のエキスパートが同社ソリューションの最新臨床応用などを報告する「Varian Oncology Summit 2023」を開催した。同社は2018年まで,同社製品のユーザーが使用経験などを報告する「varian seminar」を毎年開催してきたが,昨年から名称が変更された。Varian Oncology Summit としては今回が2回目の開催で,対面でのイベントは5年ぶりとなる。当日の様子はライブ配信されたほか,6月1日(木)〜7月2日(日)まではオンデマンド配信も行われる。また,今回はユーザーによる講演に続き,特別企画として,放射線治療計画システム「Eclipse」とbrachythrapyに関する2つのワークショップが設けられ,幅広い知見を得る機会となった。
講演に先立ち,同社シニアマネージングダイレクターの福島権一氏は,同社のビジョンである「A world without fear of cancer〜がんの脅威に負けない世界」を挙げ,「がん医療に携わる医療関係者や患者およびその家族への貢献を第一義としてきたが,今年度に入って当社リニアックの臨床稼働台数は600台を超え,がん医療を支えるメーカーとして身の引き締まる思いである」と述べた。続いて,5つのセッションが設けられ,9名の演者が講演した。
「Varian Update」では,白井克幸氏(自治医科大学)が座長を務め,Sushil Beriwal氏(Varian, Vice President, Multi-Disciplinary Oncology, Medical Affairs)が「ETHOS Therapy / IDENTIFY」と題して講演した。適応放射線治療(adaptive radiotherapy:ART)に人工知能(AI)を組み合わせたARTのトータルソリューションであるETHOS Therapyは,日々の位置合わせに用いるコーンビームCT(CBCT)データと治療計画のテンプレートなどを活用し,daily adaptationを可能とするシステムである。Beriwal氏は,まずARTの有用性を紹介した上で,ETHOS TherapyではAIを用いることで治療計画の自動化などが図られ,効率的なARTが実施できると述べたほか,導入施設からは標準的な治療時間枠内(15〜20分)での実施が可能であることが報告されていると述べた。また,より正確かつ安全なARTを支える製品として,体表面モニタリングシステム「IDENTIFY」の特徴を概説した。
「Halcyon+TrueBeamは本当にベストパートナーなのか?」では,西村恭昌氏(生長会府中病院)が座長を務め,稲田正浩氏(近畿大学)と松本賢治氏(近畿大学病院)が登壇した。はじめに,稲田氏が「臨床編」として,放射線治療医の視点から講演した。汎用型高精度放射線治療装置であるTrueBeamと,強度変調放射線治療(IMRT)/強度変調回転放射線治療(VMAT)に特化されたHalcyonの特性と違いや,治療における使い分け,利点などを概説。それぞれの特徴を理解して使い分けることで,多くの患者を迅速に治療できていると述べた。次に,松本氏は,「Halcyonの利用状況について〜TBのベストパートナー?〜」と題し,主にHalcyonの運用面について詳述した。HalcyonとTrueBeam(TB)の違いや,Halcyonの特徴,TrueBeamとの使い分け,さまざまな検証結果などについて述べた上で,VMATを短時間で実施でき,故障が少なく安定した治療が可能なHalcyonは,TrueBeamの良きパートナーであるとまとめた。
「これからの市民病院における放射線治療のあり方」では,小久保雅樹氏(神戸市立医療センター中央市民病院)が座長を務め,佐貫直子氏(市立四日市病院)と足立源樹氏(那覇市立病院)が登壇した。佐貫氏は,「三重県北部地域を担う公立病院の役割」と題して,地域の公的病院における放射線治療の実施状況や,限られたリソースで高精度放射線治療の割合を増やすための同院の取り組みなどを紹介した。また,公的病院の役割として,高齢化社会に対応した地域完結型の治療の重要性や,根治から緩和まで幅広い疾患への対応,高精度放射線治療へのニーズを満たせる体制の構築が求められると考察した。次に,足立氏は,「那覇市立病院の将来展望は?〜放射線治療の微妙な立ち位置〜」と題して講演した。同院ではバリアン社製の「CLINAC 21EX」に加えて,2台目の治療装置として2022年にHalcyonを導入した。以前は治療室の最大使用線量の制限によってIMRTや体幹部定位放射線治療(SBRT)を十分に提供できなかったが,Halcyon導入後はVMATを件数制限せずに実施可能となり,肝SBRTを開始するなど,地域がん診療連携拠点病院として十分な放射線治療の提供が可能になったと述べた。
「放射線治療における技術開発と,新しい技術の臨床化に必要なものについて」では,吉岡靖生氏(がん研究会有明病院)が座長を務め,神宮啓一氏と本間経康氏(共に東北大学)が登壇した。神宮氏は,「放射線治療における新しい技術を臨床使用する際に求められること」と題して講演した。東北大学病院における放射線治療の現状として,定位放射線治療(SRT)やVMATに積極的に取り組み,2022年には即時適応放射線治療(online adaptive radiotherapy:online ART)を開始したことを紹介。また,放射線治療におけるいくつかの課題について,近年,新技術として注目されているAIチャットの回答を踏まえて考察したほか,同院ではAIを積極的に活用し,放射線治療計画を効率化するためのソフトウエアの開発などにも取り組んでいると述べた。次に,本間氏は,「放射線治療における技術開発と,新しい技術の臨床化に必要なものについて」と題して講演した。自身が開発に携わった画像誘導技術や照射制御などの動体対策技術の歴史などを述べた上で,有効な技術が開発されたポイントとして画像化技術の著しい進展とAI技術の台頭を挙げた。また,新技術の臨床導入を推進するためには,さらなる自動化とAIの有効活用が重要であると指摘した。
最後のセッションはランチョンセミナーとして,「京都大学におけるRapidArc 15年の歴史と,今後の高精度放射線治療のあり方について」が行われた。永田 靖氏(広島大学 / 広島がん高精度放射線治療センター)が座長を務め,中村光宏氏と溝脇尚志氏(共に京都大学)が登壇した。中村氏は,「物理・技術編」として,バリアン社のVMATである「RapidArc」の導入の経緯や,導入後の精度検証,固定多門IMRTとVMATの比較,最適化パラメータの設定などについて概説。固定多門IMRTと比較しRapidArcでは照射時間が大幅に短縮し,スループットが向上したほか,知識ベース治療計画ソフトウエア「RapidPlan」の登場やEclipseのバージョンアップなどに伴い治療計画に要する時間の短縮や線量分布の改善が図られていると述べた。続いて,溝脇氏は,「京都大学におけるRapidArc 15年の歴史を振り返って」と題して講演した。2009年に同院に導入されたRapidArcは,固定多門IMRTと比較して照射時間が短縮し,MU値が低減するなど優位な点も認めたが,治療計画時間の延長などの課題もあった。現在ではそれらの課題は解決され,線量分布調整の自由度も大幅に高まっているほか,RapidArcによる原発性脳腫瘍に対する永久脱毛防止の取り組みなどにおいて,良好な結果が得られていると報告した。
本会の最後には,同社カスタマーサービス本部本部長の山本宣治氏が挨拶に立ち,「われわれは真のカスタマーケアの提供に向け,サービスを進化させるというミッションの下,一同邁進しており,放射線治療を止めないことで,医療機関やがん患者の皆様に貢献していきたい」と述べて閉会した。
●問い合わせ先
(株)バリアン メディカル システムズ
マーケティング部
Email:jp-marketing@varian.com
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