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応用一般均衡モデルによるEU CBAMの日本への影響の分析 - 経済産業研究所

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究(第五期:2020〜2023年度)
「グローバル・インテリジェンス・プロジェクト(国際秩序の変容と日本の中長期的競争力に関する研究)」

2016年のパリ協定発効以降、世界各国で気候変動対策が強化されてきている。しかし、EUのように高い削減目標を掲げている地域がある一方で、途上国を中心に対策に比較的消極的な地域もある。このような対策の強度における地域間の差は、規制強度が高い地域における企業の国際競争力を低下させ、炭素リーケージを引き起こす要因となると言われている。

この、排出規制強化に伴う企業の国際競争力、炭素リーケージの問題に対応するため、EUは国境炭素調整措置(carbon border adjustment mechanism、CBAM)の導入を計画している。CBAMとは、排出規制が緩い地域からの輸入財に対して、その財の炭素含有量に応じて税金を課すという政策のことで、EUの国内製品が排出規制の緩い地域の製品に対して競争上不利な立場にならないようにすることを意図している。

このEUによるCBAM導入の動きに対して、EUの貿易相手の地域からは経済活動にマイナスの影響が生じるのではないかという懸念が生じている。日本でもCBAMが日本企業にマイナスの影響をもたらすのではないかという懸念がある。このような懸念に応えるため、本研究では応用一般均衡モデル(computable general equilibrium model、以下CGEモデル)を利用して、EUのCBAM導入がもたらす経済的、及び環境上の影響をシミュレーションによって分析している。

CGEモデルでは一般均衡モデルにデータを組み合わせてシミュレーションをおこなう。モデルには世界を18部門、17地域に分割したグローバルなCGEモデルを利用し、データにはGTAP データ(version 10)を利用している。GTAPデータとは、Global Trade Analysis Projectが作成している、グローバルなCGEモデル用のデータのことであり、この種の分析で標準的に利用されている。モデルの構造、関数形の選択、パラメータの値などは、基本的にBöhringer et al. (2021) の設定に依拠している。

分析から得られた主な結果は以下の通りである。まず、CBAMの導入によってEUからの炭素リーケージ率は大きく低下した。これはCBAMが炭素リーケージを抑制する効果を持つということを示唆している。表1はCBAM導入による各国のGDPと消費者の便益(各国の代表的家計の効用)の変化率(%)である。CBAMの導入が各国のGDPや消費者の便益に与える効果は、総じてその影響は非常に小さいということがわかる。日本にとってはプラスの影響が生じるが、やはりその大きさは非常に小さい。

表2は日本のエネルギー集約貿易財部門(energy-intensive trade-exposed sector、EITE部門)への影響を示している。生産や価格にマイナスの影響を受けている部門があり、この意味で、EUのCBAMが日本のEITE部門にマイナスの影響をもたらす可能性が高いと言えるが、これもその効果の大きさは非常に小さいことが確認できる。

初めに述べたように、EUのCBAM導入計画に対しては日本でも懸念が生じているが、本研究の分析はCBAMが日本に及ぼす影響は全体的に非常に小さく、強く懸念するような政策ではないということを示している。

表1:CBAM導入の各国のGDPと消費者の便益への影響(%)
表1:CBAM導入の各国のGDPと消費者の便益への影響(%)
表2:日本のEITE産業への効果(変化率、%)
表2:日本のEITE産業への効果(変化率、%)

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