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受精胚のゲノム編集、臨床応用に賛否 - 時事メディカル

 近年、遺伝子領域における技術革新は目覚ましく、ゲノム編集技術が多くの分野で利用されている。しかし臨床応用に際しては科学的、倫理的、社会的な課題が残されており、国内では専門委員会で臨床応用の法整備議論が進められている。これまで、ゲノム編集技術に関する意識調査は限られた集団でしか行われていなかったため、国立成育医療研究センター社会医学研究部の小林しのぶ氏らの研究グループは、より広く国民の意識を把握すべく、一般市民、患者関係者、医療従事者を対象にオンライン調査を実施。認知度や臨床応用に対する意識が異なる傾向が示されたとの結果をJ Hum Genet2022年5月9日オンライン版)に発表した。

同一の質問票を用いたオンライン調査

 ヒト受精胚のゲノム編集により、米国とドイツの科学者が2020年にノーベル化学賞を受賞するなどゲノム編集技術をめぐっては、技術革新が目覚ましい一方で、2018年に中国の科学者らが「ゲノム編集ベビー」を誕生させたとして、後に実刑判決を受けるなどの倫理・社会的問題も生じている。またヒト受精胚のゲノム編集は、有効な治療法が限られている遺伝性疾患の治療や疾患が次世代に受け継がれるのを防ぐことが期待される反面、遺伝子改変も受け継がれるといった懸念がある。

 国内ではゲノム編集技術の臨床応用に関する法規制がなく、臨床応用への考え方は個々の立場や取り巻く環境、利用目的や条件などにより異なると推察される。これまで、ゲノム編集技術についての意識調査は対象が限定されていたことから、研究グループはより多くの国民の態度・意識を明らかにし、法整備に向けた議論の参考資料とすることを目的に調査を行った。

 対象は18歳以上の一般市民(2,060人、職業不問)、患者関係者(497人、患者本人または家族)、医療者(954人、主に遺伝医療に携わる者)の3つのグループで、同一の質問票を用いてオンライン調査を実施した。

一般市民の過半数が「ゲノム編集技術」という用語を認知せず

 アンケートは、ヒト受精胚へのゲノム編集技術の臨床応用の現状や課題、論点を整理した動画を視聴してもらった上で回答を依頼した。

 回答を見ると、受精胚に対するゲノム編集の意味や課題について説明ができる割合は、一般市民で6%と低く、患者関係者でも15%にとどまった。また、一般市民の52%が「ゲノム編集という用語を聞いたことがない」と答え、認知度の低さが浮き彫りとなった(図1)。

図1. 「受精卵に対するゲノム編集技術」を知る割合

fig01 765px.png

ゲノム編集ベビーには反対が9割以上

 次に4つの事例を提示し「事例①~④の家族の希望に応じてヒト受精卵に対するゲノム編集技術を実施するべきか」を尋ねた。

 事例の前提として「とあるカップルが疾患などの原因となる遺伝子を自分たちが持っていることを知り、その疾患を発症しない子供が授かることを希望している」とした。

事例①疾患Aは遺伝性の病気で40歳ごろに運動機能障害から発症することが多い。発症後は徐々に日常生活が困難になり、いずれ寝たきり状態になる。現在、根本的な治療法はなく、症状を緩和する治療やリハビリテーションを生涯行わなければならない

事例②疾患Bは遺伝性の病気で流産することが多く、生まれた場合も先天的に脳やさまざまな臓器に問題が起こることが知られる。臓器の機能は徐々に悪化し、20歳までに大部分の患者が亡くなるが現在、根本的な治療法はない

事例③不妊治療の検査の結果、原因は卵子の一部の遺伝子異常であることが分かった。遺伝子異常を修復することで、妊娠・出産できる可能性が非常に高くなる

事例④有名なアスリートのカップルが、子供を金メダリストのような一流アスリートに育てたいと希望している。ゲノム編集の技術を利用し生まれてくる子の体形や運動能力を向上させたい

 回答を見ると、①~③は一般市民の4割以上、患者関係者の約6割、医療従事者の3割以上が賛意を示したのに対し、治療以外の目的に利用するエンハンスメント、いわゆるゲノム編集ベビーについては、全てのグループで反対意見が90%以上を占めた(図2)。

図2. 4つの事例におけるゲノム編集技術の利用に対する許容態度

fig02 765px.png

(図1、2とも国立成育医療研究センター、プレスリリースより)

 以上を踏まえ、研究グループは「患者関係者ではヒト受精胚へのゲノム編集技術の臨床応用に肯定的な意見が多かったのに対し、医療従事者には慎重な意見が多いことが分かった。一般市民においては中立または判断が難しいとする傾向が見られた」と結論。「法整備に向けた議論を進める上では国民の意識の多様性を考慮し、意見を取り入れていくことが重要。国民の意見形成を支援し、正しい知識を幅広く普及させるためにもさらなる啓発や情報発信、教育資材の整備・教育的取り組みの推進が急務である」と付言している。

(小野寺尊允)

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