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【ディープテックを追え】iPS細胞を動物医療に応用するスタートアップの正体|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社 - ニュースイッチ Newswitch

iPS細胞(人工多能性幹細胞)を動物向けの医薬品に応用するスタートアップがいる。慶応義塾大学と日本大学の技術をもとに立ち上がったVetanic(ベタニック、東京都港区)だ。イヌ由来のiPS細胞からさまざまな組織に分化可能な間葉系幹細胞(MSC)を確立。医薬品の製造を目指す。

動物医療に新たな選択肢

「ヒトで使える医薬品がイヌに使えないことが多い。治療の選択肢が少ないのが、動物医療の現状だ」。ベタニック創業者の一人、日本大学の枝村一弥教授はこう話す。

ペットの飼育頭数は増加傾向で、「先進医療を受けさせたい」という飼い主も多いという。一部ではMSCなどの幹細胞を臨床応用する取り組みが進んでいるが、品質が安定しなかったり、ドナーである動物から脂肪を取り出すため身体的な負荷が課題になっていた。

ベタニックはこういった課題をiPS細胞由来の医薬品によって解決する。iPS細胞の大量製造によって品質を安定させる。またiPS細胞から医薬品を作ることで、ドナーの身体的な負担を減らす。

培地を改善し、イヌのiPS細胞製造

イヌのiPS細胞(同社提供)

従来ヒトのiPS細胞に比べ、イヌのiPS細胞の製造は難しかった。ヒトと同じ因子ではiPS細胞への誘導が不十分かつ、遺伝子を細胞内に運ぶ「ウイルスベクター」は病原性の観点から使えなかった。

この点を解決したのが、枝村教授や慶応大の岡野栄之教授、久留米大学の塩澤誠司准教授らの共同研究の成果だ。培地条件などを工夫することで臨床応用に適した動物のiPS細胞を作成に成功した。同社はこの手法を使い医薬品の製造に取り組む。

研究の様子(同社提供)

こうして製造したiPS細胞からMSCへ分化し、医薬品として使う。まずは炎症性疾患を対象に2026年の販売を目指す。臨床試験は24年ごろを予定する。8月には複数のベンチャーキャピタル(VC)から5億円を調達。設備投資などの資金に充てる。将来は椎間板ヘルニアなどへの適応拡大も狙う。用途を広げることでiPS細胞の製造コストを下げたい考えだ。またネコや馬など、イヌ以外の動物にも対象を広げる。望月昭典代表は「動物向けの再生医療は黎明期。市場を作っていく」と力を込める。海外への展開も見据える。

「獣医師の新しいユースケースになりたい」

(左から)望月代表、枝村教授、塩澤准教授(同社提供)

枝村教授は「獣医師の活躍の場を増やしたい」と意気込む。これまで動物医療研究は、ヒト向けの医療研究に比べ研究予算が少なく、研究成果を社会に還元する機会に乏しかった。枝村教授は自身の成果をベタニックを通じて社会実装し、獣医師にとって新しいユースケースになりたいという。目指す未来について枝村教授はこう話す。「ヒトで効果が出なかった候補薬も動物には効果的なものはある。そうした候補薬を動物向けに実装していく社会を作っていきたい」。同社の取り組みは、ヒトと動物の医療を結ぶ社会につながっている。

この連載では、「ディープテック」と呼ばれる先端テクノロジーの事業化を目指す企業を掲載します。
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