東北大学は2022年8月30日、同大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻の研究チームが、3D積層造形用ステンレス鋼材に応用可能な新しい高耐食化機構を発見したと発表した。
海水など塩化物濃度が高い水溶液中においては、ステンレス(SUS)鋼に「孔食」と呼ばれる局部的な腐食がしばしば生じる。
耐孔食性を高めるにあたっては、モリブデン(Mo)などの新たな合金元素を添加する手法が存在する。SUS304鋼にMoを合金化したSUS316鋼は耐久性や安全性に優れるため、化学/エネルギー関連設備や半導体製造装置、食品機器といった産業機器に用いられている。
ただし、3D積層造形技術で作製したSUS316鋼材は粉末を焼結する際に気孔が生じるため、耐孔食性が鋳造/圧延材よりも低い。粉末に加えるMo濃度を高めることで耐孔食性を向上させようとすると、大幅なコスト増となってしまう。このため、3D積層造形技術での製造に適した、安価で高い耐孔食性を有するステンレス鋼が求められていた。
同研究チームは今回、Moを固溶体成分ではなく、低炭素型のSUS304L鋼にMo濃化組織として分散させたステンレス鋼を開発した。
通常の溶解-鋳造-圧延というプロセスでは製造できないため、Mo粉末とステンレス鋼粉末を混ぜ合わせてMoが分散したステンレス鋼を作製した。放電プラズマ焼結法という手法を採用しており、短時間かつ低温で焼結した。
このステンレス鋼に熱処理を加えたところ、Moとステンレス鋼中のクロム(Cr)、ニッケル(Ni)が反応し、BCC相(体心立方晶)とFCC相(面心立方晶)からなる「Mo濃化組織」が生じた。このMo濃化組織は、元のステンレス鋼と比較して腐食環境で溶解しにくいほか、生じた孔食の成長に対するバリアとして働き、耐孔食性を向上させることが判明した。
熱処理温度の上昇によりMo濃化組織の体積分率が増加し、耐孔食性が約4倍にまで向上することも明らかになった。
Mo濃化組織を含むステンレス鋼を、同じMo濃度でMoを固溶体として合金化した従来材と比べたところ、より優れた耐孔食性を示した。
今回の研究結果をMo以外の希少元素にも応用することで、省資源型高耐食ステンレス鋼の開発に寄与することが期待される。
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