会議はアイデアを創造する場である半面、目的がわからない、予定時間に終わらない、結論が出ないなどでつい不毛な時間となってしまうことも少なくない。また、会議の進行役として臨んだものの、場の雰囲気を盛り上げられなかったり、発言や議論の偏りを防げなかったり、会議をコントロールできずに反省した経験もあるかもしれない。こういった問題解決の糸口となるのが、ファシリテーション力だ。会議や仕事の悩みを解消し、生産的な会議に転じさせるノウハウ、ビジネススキルへの応用の仕方を見ていきたい。
ファシリテーション力は、仕事全体の土台になるスキル
ファシリテーション力は、仕事全体の土台となり、最強のビジネススキルであると、『ゼロから学べる! ファシリテーション超技術』(かんき出版)の著者は説く。
企画でも資料作成でも会議が必要になることがある。いざプロジェクトが始まれば、完了するまで会議の連続……というように、仕事の生産性には会議の質が強く影響すると言っても過言ではない。その会議で必要なスキルが、今回のテーマ、ファシリテーション力である。
会議は主に「報告・連絡会議」「進捗確認会議」「問題発見・解決会議」「意思決定会議」「説明会」の5種類に分けられる。なかでも3つ目の「問題発見・解決会議」は、ディスカッションが中心となる。そのため、「一人で長々と話す人がいる」「頭ごなしに否定する人が出てくる」「意見がまとまらない」など、“会議における課題”が噴出しがちでもっとも難易度が高い。そのようなときに、参加者の意見を引き出し、まとめる力であるファシリテーション力があれば、スムーズで生産的な会議を実施することができるのである。
ファシリテーターに求められる3つのポイント
ファシリテーターは、ただ単に「会議を進行する人」という意味ではない。具体的には、会議が円滑に行われるようリードし、活発な意見が出るよう場づくりをする役割のことだ。
自身がファシリテーターをするときは、次の3ポイントをしっかり押さえておきたい。また、それぞれのポイントの、会議以外での応用も考えてみよう。
(1)会議を設計する
会議の目的を明確化し、それを達成するために議論の順番を組み立てる。具体的な会議のスケジュールを書き込んだアジェンダも用意する必要がある。参加者もアジェンダに目を通すことで、目的や開催時間などを把握することができ、会議にまつわる課題の解消にもつながるだろう。会議設計は、その会議の成否を左右するほどの重要な役割を持つということを心に留めておきたい。
例えば「仕事Aの下準備を○日○時までに済ませる」「プロジェクト全体のタスクと、各タスクの担当者や期限を可視化する」など、会議の設計は、会議以外の自身のスケジューリングにも応用できるだろう。
(2)会議をリードする
ファシリテーターは、準備したアジェンダに沿って時間どおりに確実に会議を進行しなければならない。誰に意見を振るか、どう意見を整理するかなどを常に考えながら、話がアジェンダから逸れた場合は軌道修正することも必要だ。
普段の仕事では、例えば企画書作成のスケジュールを立てる際などに応用できる。まず、自分がタスクをリードするということを意識してみよう。そして、どの段階で誰に確認するか、意見を整理するためにはどのような資料が必要になってくるかなどゴールを見据えて事前にスケジュールを立てる。そのうえで作成に取り組めば、ゴールから逸れていると感じた場合は軌道修正をすることで、より良い企画書をスムーズに作成することができるはずだ。
(3)場づくりをする
上司・部下間のポジションパワーを調整するのもファシリテーターの役割だ。会議冒頭にアイスブレイクを入れて固い空気を和らげるなど、参加者が平等に発言できる場づくりをする。
この力は、会議以外でも職場のチームワークを良くするために役立つだろう。
会議におけるファシリテーターの行動とは
では、ファシリテーターは実際どのように行動すればいいのか。普段の仕事の例と併せて具体的に考えてみよう。
(1)参加者の意見を引き出す
大前提として、一人ずつ順番に意見を聞くことを徹底する。「なにか意見はありますか?」と全員に向かって漠然と問いかけると、誰も意見を言わなかったり、いつも同じ人しか発言しなくなったりするからだ。
意見を最大限に引き出すために、「この件について気になることを1つ教えてください」「課題だと思っていることはなんですか?」など、答えやすい具体的な問いを用意し、回答をパスするのもありにするなど臨機応変に進行する。「問いの設計」が意見を引き出す肝だと言える。
これは普段の仕事でも応用できる。なにかフィードバックや要望をもらったときに、相手のニーズをピンポイントで引き出せるような質問ができれば、齟齬を少なくできるかつ、業務もスムーズに進むだろう。
(2)合意形成を図る
さまざまな意見を募った上で、1つに絞り込むのが合意形成だ。決め方には「全会一致」「多数決」「リーダーによる決定(一任)」などがあるが、メンバーの納得度や議論に要する時間など、それぞれに一長一短がある(図1)。
出典:『ゼロから学べる! ファシリテーション超技術』をもとに編集部作成
納得度が高く、スムーズに決められておすすめなのは、「全会一致」と「リーダーによる決定(一任)」をミックスする方法だ。まずは全会一致を目指し、時間が来ても決まらなかった場合はリーダーが決める。
会議の場だけでなくとも、複数人から希望を募って1つに絞り込むケースはほかにもある。その際も、場に合った合意形成を意識すると、人間関係を不要に乱すことなく結論に導けるだろう。
また、発言していない人には積極的に話を振ることも重要だ。たとえ自分の意見が採用されない結果になったとしても、「発言できた」「自分の意見を聞いてもらえた」という経験は、納得度に大きく寄与するからだ。
ほかにも、著者は心構えとして、「中立的であること」「笑顔を絶やさない」「意見を否定・批判しない」「相手を尊重する姿勢を示す」などを挙げている。このような心構えを日頃から意識していると、普段の仕事においても、メンバーとのコミュニケーションにいい影響を与えられるかもしれない。
ファシリテーション力にかかせない問題解決の基本
著者いわく、先述の5つの会議のうちもっとも難易度が高い「問題発見・解決会議」の頻度が増えているとのこと。問題を発見し、解決するというスキルは会議の場面だけではなく、自身の案件を進める際にも持っておきたいスキルである。そこで、まずは問題解決の基本を押さえておきたい。書籍では、「問題解決のフレームワーク」として以下の4つのフェーズを挙げている。
(1)問題を発見する
まずは現状を正しく把握することから始めよう。その上で「こうなったら素晴らしい」という「あるべき姿」を描く。その「現状」と「あるべき姿」の差こそが、「問題」だ。
(2)原因を分析する
問題には必ず原因がある。問題が明確になったら、それがなぜ起こったのかを探ろう。原因をいくつか洗い出したら、そのなかでもっとも影響を与えていると思われる主原因を特定する。
(3)解決策を選定する
自由な発想でさまざまなアイデアを募った上で、実現性はあるか、費用対効果はどうかなどを鑑み、1~2つの案に絞り込む。
(4)計画を策定する
最後に、解決策を実行するための「目標設定」「タスクの洗い出し」「役割分担」を行う。5W1H(だれが・いつ・どこで・なにを・なぜ・どのように)を基本とし、明確な目標を設定することが重要だ。
このように問題を解決するには、問題を特定し、原因を分析し、解決策を検討し、活動計画を決定するという大きな流れがあることがわかった。この順番が前後したり、混同したりすることのないよう意識することで、問題解決のスキルが向上し、ファシリテーション力により磨きがかかるだろう。
ファシリテーション力は仕事を楽しくするきっかけ
ファシリテーション力を磨くと、「意見を引き出す」「話を聞いてまとめる」といったスキルを身につけられる。ときには、普段は発言の少ないメンバーから、思わぬアイデアを引き出すことができるかもしれない。
課題解決やプロジェクトの完遂に向かって仲間とアイデアや意見を出し合うことは、「いい仕事」に結びつき、仕事が楽しく感じられるもの。書籍にはオンライン会議についてのコツなども載っているので、興味を持った人は書籍を確認し仕事で活用してほしい。
■書籍情報
書籍名:ゼロから学べる! ファシリテーション超技術
著者 :園部 浩司(そのべ こうじ)
プロファシリテーター。横浜出身。1991年、NECマネジメントパートナーに入社。経理部に配属され、その後、事業計画部へ異動し36歳でマネージャーに昇格。さまざまな企画を立案し実行するが、プレイヤー時代の仕事のときのようにチームマネジメントはうまくいかず、成果をなかなか出せずにメンバーとの関係が悪化することが多かった。
変わらなければと、いろいろなセミナーを受講するなか、ファシリテーションスキルに出会う。ファシリテーションを実践していくうちに劇的にメンバーとの関係が良好になり、プロジェクトでも大きな成果がでるようになった。その後、300名在籍の組織変革プロジェクトリーダーを務め、年間1000本以上の会議をこなし、1年間で約2億円の営業利益の改善に導く。業務改革推進本部では、最年少部長に抜擢される。
2016年に独立し、人材育成や組織改革、風土改革のコンサルティングを行う「園部牧場」を設立。ベンチャーから大手企業までの会議を仕切るほか、年間2500人以上のファシリテーターの育成に携わる。これまでに指導した人数は、延べ6600人以上になる。
出版社:かんき出版
本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです。
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